PTAは必要か?…暗黙ルール「全員参加」の酷、「平日お掃除会」「ハンドベル」とは、高まる議論
[産経ニュース2015.5.31 07:00]

 年度替わりの前後、小中学生の子供を持つ母親に緊張が走る瞬間がある。それはPTA役員・委員選出のくじ引き。積極的に引き受ける人が少ないため、仕事の有無にかかわらず全員が一度は引き受けるのが暗黙のルールとなっている学校が少なくない。役員・委員を務めるのは、たいてい母親。会合が平日の昼間に行われることが多く、共働き家庭が増える中、「平日に集まってお掃除会」「余興にハンドベルの練習」など、活動内容への不満は高まるばかりだ。

 
■「しなくていい活動」多すぎる

 「PTAなど、なくなってしまえばいい」。中学1年と小学2年の子供がいる兵庫県の会社員、上田裕子さん(44)=仮名=は憤懣(ふんまん)やる方ない様子だ。

 「しなくていいことを、わざわざしています。小学校では学期に一度、授業時間を使って保護者が子供や先生と親睦を深めるイベントを委員が企画します。月1回の『おそうじ会』では保護者が学校の掃除。手間をかけて作られるフルカラーの広報誌は学年便りなどで知っていることばかり」

 腹立たしいのは、こうした集まりが全て平日に開かれること。自身は働いているうえ、夫は単身赴任中。もしお鉢が回ってきたら、欠席を続けるほかなさそうだという。役職は本部役員に始まり、役員選びの選考委員や公民館委員、地区委員、クラス委員、補導係…。選考は「ポイント制」で、会長や副会長をすれば2ポイント、各委員は1ポイントを付与され、在学中に子供1人につき1ポイントを稼ぐ決まり。必ず一度は役員・委員が回ってくるというわけだ。

 「積極的にしたい人はいないから結局、くじ引き。脱会したいですが、近所で変な評判が立っても困りますし。子供や家を人質にとられている気がします」と上田さん。


■平日の昼間に会合なんて

 PTAは、保護者と教職員が協力して子供の健全育成を図る社会教育関係団体。学校単位で組織され、体制や運営方法に違いはあるが、本部役員のほか広報や校外、学年・クラスなど各種委員会が設置される。原則、任意加入であっても、都市部では子供の在学中に必ず一回は引き受けるのが暗黙のルールとなっているところが多いようだ。

 活動が平日でも、共働き家庭が免除されるわけではない。小学6年の1人息子がいる東京都の会社員、小林加代さん(49)=仮名=もクラス委員を経験した。「大変なのは平日の委員会。専業主婦のお母さんたちは平日に集まろうとする」。小林さんが平日の会合を乗り切れたのは、クラス委員が1学級2人体制だから。もう1人が同じように働く母親だったので、都合の悪いときはカバーし合うことができたという。

 東京都の会社員、鈴木聡子さん(37)=同=は小学6年の長男が4年生だった一昨年、下の子供の育児休業中で「今なら平日の集まりに出られる」とクラス委員を引き受けた。しかし、下の子が小学生になったときは同じ手が使えない。「他のお母さんたちと雑談するのが大事だから、お父さんが加わるのは難しいでしょうし」と悩む。

 不要と思われる活動が多い点を指摘する意見もしばしば聞かれる。地域の自治会長や議員、首長も参加した新年会で本部役員たちがハンドベルを演奏したことを広報誌で知り、「余興の練習に時間を費やすなら絶対に役員をしたくない」という母親もいる。

 「PTAが何のためにあるのか分からない。保護者同士のコミュニケーションを図っているだけで、子供に還元されない」と話すのは奈良県の教員、田中明子さん(46)=同=だ。

昨年は長女が通う中学の文化厚生委員として、保護者同士が交流するためのクラフト体験会や茶話会を企画した。今年は次女の小学校の広報委員を務めるが、広報紙は子供の写真をただ張っているだけ。「子供の受験や不登校に配慮してもらえない。私は仕事をやりくりして参加しますが、来ない人に学校側が何もいわないので、本当に参加する意味のある活動なのか疑問です」と嘆く。

 
■いじめ…人間関係の難しさも

 苦労するのは、働く母親にかぎらない。東京都の40代の専業主婦はパソコンのメールアドレスを持っていないのに、くじ引きで広報委員長に決まり、ウェブデザイナーなどの職を持つ他の委員と画像や文書をやりとりするのに苦労した。

 「イベントで来賓の視界を遮った疑いをかけられ、本部役員が集まった場で謝罪を求められた」「PTAに逆らってはいけない空気があり、何か提案するとメールで陰口が回るなど、『いじめ』のようなこともある」など人間関係の難しさもある。コミュニティーのしがらみが希薄な都市部では、委員に決まっても会合に出席しない保護者もおり、役員が出席者集めに苦労する地域も少なくない。

 一方、長女が小学5年だった4年前に広報委員を経験した東京都の会社員、阿部寛子さん(45)=同=は「広報誌は無駄といわれがちですが、保護者だけでなく行政機関や地域の青少年団体などに学校とPTAの取り組みを伝える重要なツール」と、目的意識を持つ重要性を説く。

 PTA活動を意義のあるものにするためには、阿部さんが指摘するように会員の意識向上も重要な要素だが、保護者の間では活動内容への批判の方が多いようだ。NPO法人、教育支援協会が政令市の元・現PTA役員や現会員の保護者を対象に平成21年に行ったアンケート(有効回答者3285人)で、「PTAがより活性化するための取り組み」(複数回答)を尋ねたところ、「もっと気楽に参加できるような組織にする」(39%)「どんな活動が必要かを検討しなおす」(35%)と改革を望む声が、「会員の意識向上を図る」(20%)を上回った。

 
■それでも「組織は必要」が過半数

 同調査は、生涯学習に関する20年の中央教育審議会答申で保護者のPTA離れが指摘され、学校・家庭・地域を結ぶPTAの充実が求められたのを受け、文部科学省の委託で実施。「PTA組織は必要か」を委員経験回数別に尋ねた設問では、経験なし▽1回▽2~5回▽6回以上-のいずれでも「必要である」と答えた人が過半数を占め、PTAを「必要ではない」とした人は全体の4%だった。

 同協会はPTAの課題として「関わりたい人が少ないのではなく、関わりにくいシステムのまま」である点を報告書で指摘し、「PTA活動は参加したい人だけが行い、保護者全員が関わらなければならないことは保護者会で引き受けるというように明確に区別する」ことを活性化策の一つとして示している。

 運動会など行事の支援や通学時の安全確保といった全員がかかわるべき部分に絞って、親のレクリエーションやボランティア活動と分ければ負担感が軽減される可能性はありそうだ。しかし、役員・委員は1、2年で交代するため、改革が先送りされる傾向がある。18年の教育基本法の改正で学校・家庭・地域住民の連携が盛り込まれたものの、PTA活動が主に母親の負担となっている状況は変わっていない。父親や地域の人々が参加しやすい仕組みづくりが求められている。
(寺田理恵、池田美緒)